ハンドオーバー

読み:はんどおーばー / 英語表記:Handover

ハンドオーバーは、端末の移動や電波状態の変化に応じて、通信中の接続先のセルやアクセスポイントを切り替え、サービスの継続を図る仕組みである。無線の接続先だけでなく、必要に応じて通信経路や接続情報も引き継ぐ。

イマシルちゃんの解説

歩きながらスマホで通話していると、最初につながった基地局から遠ざかることがあるよね。
そのままでは電波が届きにくくなるから、別の基地局へ接続を引き継ぐ必要があるんだ。
この切替えを支える仕組みがハンドオーバーだよ。
端末が測った電波の状態などを使い、新しい接続先とデータの通り道を準備するの。
Wi-Fiでも、移動に合わせてアクセスポイントを替える似た動きがあるよ。
ただし接続の確認や切替えには時間がかかるので、移動しても通話を続けやすくするには機器の対応やネットワークの設計も大切なんだ。

より深い解説

接続を引き継ぐことと接続先を選ぶこと

携帯電話網のセルは、基地局が特定の周波数などでサービスを提供する単位である。端末が移動すると、現在のセルの電波が弱くなり、隣のセルの方が適した接続先になることがある。混雑を分散するために切り替える場合もあり、単に地理的に最寄りの基地局を選ぶ仕組みではない。

LTEの待受状態では、端末が基地局からの情報や電波測定結果に基づいて待ち受けるセルを変えるセル再選択が行われる。一方、接続状態でサービスを引き継ぐときは、基地局側が端末の接続情報や利用資源を扱いながら切替えを進める。端末が最初に利用可能なセルを選ぶセル選択とも区別する。状態と無線方式によって手順が異なるため、「電波が強い方へ移る」という説明だけでは不十分である。3GPP TS 36.300の10.1節

ハンドオフという別名もある。通信事業者間の契約関係に基づいて他社網を利用するローミングとは、対象とする仕組みが異なる。ただし、無線LANではアクセスポイント間の移動自体をローミングと呼ぶことが多い。

携帯電話網での基本的な手順

LTEの通常の基地局間切替えを例にすると、主な流れは次のとおりである。実際の制御メッセージや関与するコア網の装置は、無線方式や切替え先の構成によって異なる。

  1. 端末は基地局が指定した条件に従って周辺セルの電波を測り、測定報告を送る。
  2. 現在の基地局は切替え先を判断し、相手に受入れを要求する。相手は必要な無線資源を確保し、端末の能力やセキュリティに関わる情報を受け取る。
  3. 現在の基地局は端末へ切替えを指示する。端末は切替え先の電波に同期し、通常はランダムアクセスなどの手順で送信タイミングと接続を確立する。
  4. 端末の接続が切り替わったことを受け、ネットワーク側でデータを新しい基地局へ送る経路に変更する。必要に応じて旧基地局に残ったデータも転送する。
  5. 引継ぎが済んだ旧側の資源を解放する。

このように、無線の切替えとデータ経路の切替えは協調して行われる。また、接続のたびに加入者認証を最初からやり直すとは限らない。引き継いだセキュリティ情報などを使って継続性を確保する。接続先が変わるたびにSIMの認証を全面的にやり直す、と理解するのは誤りである。3GPP TS 36.300の10.1.2節

電波の揺れに反応し過ぎないための制御

LTEでは、基準信号の受信電力を表すRSRPや、基準信号と受信した電力全体の関係から品質を評価するRSRQなどを測定に使う。後者は干渉などの影響も受けるため、電波の強さだけを見て良好な通信ができると判断してはならない。

セルの境界では、人体や建物の影響で測定値が短時間に上下する。少し強くなった相手へ即座に切り替えると、二つのセルを頻繁に往復するピンポンハンドオーバーが起こり、制御の負荷や通信の中断が増える。

この揺れを抑えるため、測定イベントの成立・解除に余裕を設けるヒステリシスと、報告条件が一定時間続くことを求めるTime to Triggerなどを使う。「候補セルの方が十分よい状態が一定時間続いたら報告する」という考え方である。実際の判定式にはイベントの種類やオフセットも関係する。3GPP TS 32.592の測定報告パラメータ

ただし、余裕や待ち時間を大きくし過ぎると、移動が速い場合に切替えが間に合わなくなる。頻繁な切替えを減らすことと、古い接続が使えなくなる前に移ることは両立を考える必要がある。失敗率だけでなく、移動速度や発生地点も合わせて評価する。

切替え中の接続の保ち方

旧側の無線接続を離れてから新側で通信を始める方式をハードハンドオーバーという。切替えの間にはデータを送受信できない時間が生じ得るため、準備や同期を短くすることが重要になる。

これに対し、旧側と新側の無線接続が重なる期間を設ける代表例がソフトハンドオーバーである。W-CDMAの専用チャネルなどでは、複数の基地局との接続を利用して信号の合成や選択を行いながら接続先を変えられる。これは特定の無線方式とチャネルに結び付く仕組みであり、3Gのすべての通信や、LTE・NRのすべての切替えで同じ動作をするわけではない。NTTドコモ研究者によるW-CDMAの解説

LTEの仕様にも、切替え先への接続を進めながら旧側のデータ受信を続けるDAPSという拡張がある。古典的な二分類だけで「LTEは必ず先に切断する」と断定せず、規格の世代と機器が実装する手順を確認する必要がある。複数キャリアを束ねるキャリアアグリゲーションや二つのノードに接続するデュアルコネクティビティも、切替えそのものとは目的が異なる。3GPP TS 36.300の10.1.2.1節

無線LANで接続先を替える場合

Wi-Fiでは、端末がどのアクセスポイントへいつ移るかを判断するのが基本である。ネットワーク側は候補の情報や移動を促す情報を提供できるが、その結果は端末の実装にも左右される。同じSSIDを出すアクセスポイントでも、接続先を識別するBSSIDは異なる。

切替えを支援する代表的な規格は、次の役割を持つ。

規格主な役割短縮・改善する対象
IEEE 802.11k周辺のアクセスポイントなどに関する情報を利用する接続候補を探すための探索
IEEE 802.11vBSS Transition Managementなどで移動候補を示す端末による接続先の判断
IEEE 802.11rFast BSS Transitionによって鍵の確立などを効率化する切替え先で安全に通信を始めるまでの時間

IEEE 802.1Xを用いるネットワークで、移動のたびにEAPの認証交換をすべて行うと、その待ち時間が通話に影響することがある。高速な切替えの仕組みは、この処理を効率化するために使う。探索支援、移動候補の提示、認証処理の効率化は異なる役割であり、一つを有効にすれば残りも解決するわけではない。対応状況や切替え条件も機種ごとに確認する。AppleによるWi-Fiローミングの説明

無線の切替えと上位の通信の継続

アクセスポイントへの再接続に成功しても、それだけでアプリケーションの通信が続くとは限らない。データリンク層の接続に加え、ネットワーク層のIPアドレスと到達経路を維持できるかが関係する。

同じサブネットへ収容される構成なら、移動後も元のアドレスを利用できる。一方、別サブネットへ移りアドレスが変わる構成では、通常のTCP接続などはそのまま継続できない。ネットワーク側で移動を吸収するか、アプリケーション側で再接続するなどの対応が必要となる。

異なる収容先へ移っても、元の収容点までトンネルで通信を戻す構成などがある。このように移動中の通信経路の基準点となる装置・機能をモビリティアンカーという。例えば無線LANコントローラ間で利用者の接続情報を引き継ぎ、元のアドレスを保つ方式がある。ただし、対応するモードやVLAN・ポリシーの条件は製品ごとに異なる。同じSSIDに揃えるだけでは、その条件まで揃ったことにはならない。Ciscoによるレイヤ3ローミングの説明

携帯電話網でも、コア網がセッションとデータ経路を引き継ぐことで無線の接続先が変わっても通信を継続できる。無線方式や網をまたぐ移動では、そのための対応条件を別に確認する必要がある。Wi-Fiの高速切替えを支援する規格自体が、任意のサブネット間でアドレスを維持してくれるわけではない。

移動時だけ発生する障害の調べ方

切替え前に電波が使えなくなると、無線リンク障害(Radio Link Failure、RLF)となり、接続の再確立が必要になる場合がある。遅過ぎる切替え、早過ぎる切替え、不適切な切替え先は別の問題である。測定結果、切替え指示、移動先での接続成功・失敗の時刻を並べて原因を調べる。3GPP TS 36.300の22.4節

無線LANで「静止していると通話できるが廊下を歩くと途切れる」場合には、次のように観測結果と対処を対応付ける。

観測結果主に疑う箇所確認する内容
切替え前から再送や損失が増える電波の設計・切替え判断エリアの重なり、干渉、端末の候補探索
新しいAPを見つけているが認証に時間がかかる認証と鍵の確立RADIUSの応答、高速切替えの対応と設定
再接続は速いがアドレスが変わり通信が止まる収容先と経路VLAN、サブネット、コントローラの移動対応

受信強度を上げるために全APの送信出力を最大にすると、干渉が増えたり、端末が遠いAPへ接続し続けたりする場合がある。実際に使う端末とアプリケーションで歩行試験を行い、切替え時間、パケット損失、遅延の変動を測る必要がある。通話品質の評価では、静止時の速度測定だけでは不十分である。

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